熊鈴を鳴らす警察犬おじさん vs 窓を閉め切る私。地方の町で起きている「正義」の摩擦

自然

最近、テレビをつければクマ、SNSを開けばクマ。 連日のようにクマの目撃ニュースが世間を賑わせている。

もちろん、遭遇したら命に関わる大ごとだし、警戒するに越したことはない。 ……ないのだが、私の住むこの半端な地方の町(いわゆる半田舎)では、ちょっとばかり過熱気味な狂騒曲が響き始めている。

近所の小学生たちが、ランドセルにクマ鈴をジャラジャラと鳴らしながら登校するのは、微笑ましくもあるし理解できる。

困っているのは、大人たちの過剰適応だ。

朝4時、静寂を切り裂く正義のチャイム

ここ数週間、朝の4時ころになると、どこからともなく「チリンチリン……」「シャンシャンシャン……」と、鈴の音が聞こえてくる。 まだ夜が明けきらない、静まり返った住宅街。その静寂を、澄み渡る金属音が無慈悲に切り裂き、私の眠りを強制終了させる。

音の主は、早朝のジョギングやウォーキングに励むおじさんたちだ。 彼らもまた、腰にクマ鈴を装着して走り回り始めたのである。

ある朝、一度だけそのうちの一人とすれ違った。 すれ違いざまに見た彼の眼は、薄明りの中でらんらんと輝き、さながら不審者を探す警察犬のようであった。その表情には一切の迷いがない。 「俺が朝一番に走り回り、鈴の音でいるかもしれないクマを追い払い、この市民を、町を守っているのだ」そんな100%の使命感と正義感に満ち溢れていた。 そう、彼はただのランナーではない。この町を陰から支える、自称・早朝のヒーローなのだ。

正義には、誰も立ち向かえない

「朝の4時から住宅街で鈴を鳴らすのは、普通に騒音なのでやめてもらえませんか」そう言えるほどのコミュニケーション能力は、悲しいかな、私には持ち合わせていない。 そもそも、相手は「正義」の鎧を身にまとったヒーローだ。悪気がないどころか、良いことをしていると信じて疑っていない。

そんな相手に、町内会や看板を通じて「早朝のクマ鈴自粛」などを呼びかけようものならどうなるか。 せっかくボランティアでパトロールしてやっているのに、どこのどいつだ、文句を言っている非国民は!と、ヒーローの逆鱗に触れ、地域社会の同調圧力によってこちらの立場が危うくなる未来しか見えない。そもそも町内会に相談した時点で、何がいけないの??と言われてしまいそうだ。

正義を盾にした善意ほど、厄介で立ち向かいにくいものはない。

現代を生き抜く、私の秘密兵器

そんなわけで、私は戦うことを諦めた。真っ向勝負など、半田舎で平穏に暮らすための最適解ではない。

とはいえ、この蒸し暑い季節、窓を開けられないのは地獄である。 鈴の音をシャットアウトするために窓を閉め切れば、部屋はたちまち熱帯夜(熱帯朝?)と化す。

普通ならここで詰むところだが、私には現代テクノロジーの結晶、水冷マットがある。

外からの正義のチャイムをサッシの防音性能で物理的にシャットアウトし、室温のハンデは、敷くだけで体温をじんわり奪ってくれる水冷マットで完全カバーする。これで、窓を閉め切った部屋でも、驚くほど快適な涼しさをキープできるのだ。

今日も街の平和は守られ、私は二度寝する

午前4時。 遠くから、かすかに「シャン、シャン、シャン……」とヒーローの足音が近づいてくる。

私は水冷マットのひんやりした心地よさに包まれながら、布団の中でそっと目を閉じる。

外では警察犬のごとき眼光のヒーローがクマを威嚇し、家の中では私がテクノロジーに守られて二度寝をむさぼる。

これぞ、半端な地方の町で繰り広げられる、静かなる日常のワンシーン。 おじさん、今日もパトロールお疲れ様です。あなたのおかげで市民の平和は保たれている。私はもう少し、冷たいマットの上で眠らせてもらいます。

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